農林中央金庫 理事常務執行役員 ITデジタル統括責任者(CI&DO) 半場雄二氏 (左)
農林中央金庫 ビジネス共創部 ビジネス共創班 大畑花鳴氏 (中)
農林中央金庫 ビジネス共創部 ビジネス共創班 齋藤祥祈氏 (右)

 
農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関の農林中央金庫では、中期ビジョン「Nochu Vision 2030」のもとで重点的に取り組むDXにおいて、SaaSやローコードソリューションを積極的に取り入れ、アジャイルに業務変革や高度化を進めている。こうしたIT環境の急速な変化に現場職員が追随できず、システムの定着化に課題を抱えていた同金庫は、ServiceNowを皮切りに、Box、SharePoint、SAP Concur、CompanyへとWalkMeを段階的に導入。マニュアルに依存した運用からの脱却を実現したほか、単なる操作ガイドを超えた新しい価値を見出している。

業務や働き方の本質を変えるには利活用の浸透が優先課題

農林中央金庫(以下、農林中金)は、国内有数の機関投資家としての機能と、JAバンクの全国機関としての機能を兼ね備えた協同組織の中央機関である。1923年の設立以来、世界の金融市場で安定した利益をあげるという挑戦を続け、規模の大小を問わず、地域と農林水産業を守る人々に尽くす金融機関として生きてきた。そうして歴史を重ね、2023年に100周年を迎えた農林中金は、次の100年に向けて「持てるすべてを『いのち』に向けて。」から始まる新たなパーパスを掲げ、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献するために、解決すべき重要課題の解決に向けて走り出したところだ。

農林中金では、“2030年のありたい姿“を定めた中期ビジョン「Nochu Vision 2030」のもとで重点的に取り組むDX戦略として、「ビジネス×ITデジタルによるITデジタル・データ利活用の浸透を通じた、新たなビジネス価値の創造と生産性向上の実現」を掲げている。この実現に向けて、IT統括部DX共創グループ(現ビジネス共創部)は、SaaSやローコードソリューションを積極的に取り入れ、アジャイルに業務変革や高度化を進めている。

「単にデジタル化を進めるだけでは業務や働き方の本質は変わらないという問題意識のもと、ITインフラの刷新を、業務の見直しと一体的に進めるアプローチを取っています」と半場氏が語るように、働き方や意思決定のあり方、さらには組織風土そのものを変革していくための通過点としてDXを位置づけている。

2021年に導入したMicrosoft 365を皮切りに、ServiceNowによるワークフローの刷新、Boxによるコンテンツの集約、SAP Concurによる経費精算の効率化といったように、全社員の働き方に関わる全社的なシステム導入を積極的に推進してきたのも、乱立していたシステムを見直し、業務を一気通貫で進められる環境を整備することで、職員の体験価値を高め、組織としての変革を着実に進める狙いだった。

しかし、こうしたIT環境の急速な変化に対応していく中で、定着化に課題を感じる場面が増えていった。半場氏は、「せっかくマニュアルを作成して配布しても、プリントアウトだけして、結局は確認もせずに問い合わせをしてくるわけです。そうなると、双方にフラストレーションがたまります。また、ユーザーには幅広い世代がいるので、早々に一部の職員から『ついていけない』という声も上がっていました」と振り返る。

全社標準システムに段階的にWalkMeを実装

今後短期間で新しいツールを次々と導入する計画でいたものの、現場の利活用が進まないとなると、変革が形骸化しかねない。定着化をどのように支援していくべきか頭を悩ませていたときに、ガートナー社のシンポジウムでWalkMeの存在を知った。すぐに問い合わせをし、話を聞き、実際に操作性を体感した上でWalkMeの採用を決定した。

「Microsoft 365を展開した際に、マニュアルを作成しても使われない現実を改めて目の当たりにしたので、WalkMeを活用することで、個別の業務ごとに多くのマニュアルを作成・メンテナンスする従来の運用体制から脱却できるのではないかと期待しました」(半場氏)

同金庫は全社ワークフローシステムの刷新をServiceNowで行うことを決定していたが、旧ワークフローシステムをBPRとセットで一新したため、これまでとUIが大きく変わる点を懸念していた。そこで、ServiceNowを全社導入するにあたりWalkMeを実装。イントロダクションとしての概要説明を配布したのみで、マニュアルは徹底して作成しない方針で展開した。職員から「マニュアルはないのか?」と問い合わせを受けたことも何度かあったが、WalkMeだけでスムーズに利用を開始できると確信していたため、「ありません」と自信をもって答えていたという。もちろん、IT統括部のメンバーが全国の本支店に定期的に足を運んだり、ハンズオンの研修を実施したり、現場が目的を理解し納得感を得られる進め方にも配慮した。

ServiceNowへのWalkMeの実装は、同金庫にとってマニュアルなしで導入を進める初めての経験となったが、WalkMeを活用し、ユーザーが実際に操作を行う中で自然と使い方を習得できるようにしたことで、現場の混乱もなく全社導入を推進できた。その効果は定量的にも表れており、WalkMe導入によるServiceNow上での年間削減時間は4,409時間(※WalkMeによる試算)に上る。この経験をベースに、同金庫はBox、SharePoint、経費精算システムのSAP Concur、人事管理システムのCOMPANYへの実装を段階的に進めていった。

マニュアル依存の運用から脱却し問い合わせを1/3に削減

現在は、グループ会社を含む7,000名以上の従業員が、WalkMeが実装されたシステムを利用中だ。WalkMeは、新しいシステムへの適応という観点において、単にマニュアルに依存した運用からの脱却を実現しただけにとどまらない。「WalkMeは、システム開発を伴わず、即時にリリースできるのが大きなメリットだと感じています」と語る大畑氏は、「突発的なUIの変更に速やかに対応できるだけでなく、ユーザーから特定の内容に関する問い合わせが多いなと思ったら、もともと存在していたかのように、速やかにガイダンス表示を追加することもできます」と説明する。結果として、同じような問い合わせが繰り返し発生する状況も改善できる。

実際、毎年年末調整の時期に問い合わせが急増していたが、CompanyにWalkMeを実装したことで、問い合わせを3分の1程度に削減できた。また、ベンダーに開発を委託する場合との比較で、開発工数や開発コストの削減はもちろんのこと、ベンダーとのやりとりにかかるコミュニケーションコストの削減にもつながっている。

一方、人事部門では、ITをバックグラウンドとしない業務部門による市民開発も進んでおり、大きなトラブルも起きていない。「自分たちで開発できるとコミュニケーションコストがかからなくてよいという声も聞こえています。ただ、標準化を進めていく上では、属人化やブラックボックス化を防ぐためのルール策定やガバナンス構築が必要だと感じています。業務部門からヒアリングしてIT統括部で開発する場合であっても、すべての要望を受け入れるのは違うと考えています」と齋藤氏は語る。

さらに同金庫は、WalkMeの活用に新しい価値を見出している。その一つが、シャウトアウト機能による社内周知の徹底だ。たとえば、役員メッセージの閲覧促進を目的に、シャウトアウト機能を用いて2日間限定で表示したところ、職員の50%近くがWalkMe経由で記事を閲覧。周知手段としての有効性を確認した。また、年末調整の時期には、Companyの画面を開いた際に、入力期間や期日に関する注意喚起を表示。確実に目に入る導線として高い効果を発揮している。このように、社内コミュニケーション基盤としての活用も拡がりつつある。

また、ボトムアップによるDXカルチャーの醸成という観点でもWalkMeの貢献が期待される。農林中金には、入庫2~3年目の若手職員を対象に、自律的なキャリア形成を目的として実施する金庫内インターン制度がある。その一環として、IT統括部では、インターンの期間内にWalkMeを含むITデジタルツールの開発体験の機会を提供しており、これが、利用者の立場でその効果を実感できる貴重な機会になっているというのだ。齋藤氏は、「こんなに容易に開発ができるのであれば、自分たちの部署で独自に使用している業務システムにもWalkMeを実装してみたいという声が、各部署から上がるようになっています」と語り、現場職員の自律的な意識変化に手応えを感じている。農林中金にとってのWalkMeは、もはや単なる操作ガイドではなくなりつつあるのだ。

業務とシステムの間に立つ“インテリジェントな触媒”へ

金庫事業において、AIを単にルーティン業務の代替手段としてではなく、業務の高度化や収益向上など、トップラインの引き上げを目的とする案件に活用し始めている農林中金では、AIとDAPがより深く融合した先に生まれる新しい価値にも注目している。

「現場職員がシステムを十分に使いこなすためにはUIが重要です。システム上でのユーザー行動をリアルタイムに捉えることを得意とするWalkMeの特性を活かして、可視化された情報をもとにAIが状況判断を行うようになれば、ユーザーは“操作する”意識を持たずに、ストレスなくシームレスに業務を完了できるようになるでしょう。将来的には、“システムが人の業務に寄り添う“形での業務遂行が当たり前になっていくと考えています」と半場氏が語るように、農林中金では、WalkMeが、業務とシステムの間に立つ“インテリジェントな触媒”として進化していくことを期待している。

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