導入したシステムを“Run”状態へとスケールし誰一人取り残さないデジタル化を推進

株式会社荏原製作所 情報通信統括部 戦略企画部 ビジネスアクセラレーション課 課長 佐藤和也氏
株式会社荏原製作所 情報通信統括部 戦略企画部 ビジネスアクセラレーション課 松原槙吾氏
株式会社荏原製作所 情報通信統括部 戦略企画部 ビジネスアクセラレーション課 加藤真裕氏

産業機器メーカーの荏原製作所は、SAP Concurの導入プロジェクトを進めるなかで、カスタマイズが困難なSaaSの壁に直面。コロナ渦で定着化への取り組みにも課題を抱えていた同社は、PoCを通じてWalkMeの導入を決めた。専任チームを立ち上げ、業務部門を巻き込みながら効率的かつスピーディーにプロジェクトを推進し、現在は45のシステムへの実装を完了。WalkMeが早期定着化やカスタマイズコストの削減に大きく寄与し、導入したシステムの価値を高めている。

SAP Concurの導入を機にSaaSならではの壁に直面

1912年の創業以来、ポンプを中心とする世界トップクラスの産業機械メーカーとして、社会・産業インフラを支え、産業発展の力となり、安心で安全な暮らしや豊かな社会の実現に貢献してきた株式会社荏原製作所。2020年には、10年後の2030年度に向けた長期ビジョン「E-Vision2030」を策定。グローバルエクセレントカンパニーを目指して、「技術で、熱く、世界を支える」というスローガンを掲げ、さまざまな課題解決に取り組んでいる。

2020年に同社に入社し、出張・経費管理ソフトウェアのSAP Concur導入プロジェクトに参画したという佐藤氏は、コロナ渦で発生していたエデュケーション課題についてこう振り返る。
「対面での説明の機会が奪われ、オンライン説明会を数多く実施しましたが、かなり時間をかけても無反応だったりして、双方向のコミュニケーションの難しさを痛感しました。加えて、参加者のスケジュール調整が複雑化するという問題もありました。マニュアルやFAQを充実させると共に、細かく動画を作って参照できるようにもしましたが、ユーザーにしてみれば、どこを見ればいいのかわからなかったかもしれません」

本社から導入を始め、グループ会社への導入を進めるなかで、新たな課題も浮上した。
エッセンシャルワーカーが多いグループ会社は規定やルールが異なり、そのまま対応してしまうとUIが複雑化するだけでなくマニュアルが増え、問い合わせの増加につながってしまう。そもそもSaaSであるSAP Concurはカスタマイズが困難である。さらに追い打ちをかけるように、SAP ConcurでUIの大幅な刷新が行われることが発表され、使い慣れたUIからの変更を迫られることになった。マニュアルを改定したら、再び説明会の開催も検討しなければならない。やっと慣れ始めていたところに混乱が起きるのは必至である。こうした変化への対応として同社が着目したのがWalkMeだった。

誰一人取り残さないデジタル化の実現を確信

そこで同社は、PoCを実施してWalkMeの効果を検証することにした。しかも、SAP Concurの新UIが適用されるタイミングで同時にWalkMeを適用してみるという挑戦だった。20代から70代まで約20名の協力者を得てPoCを実施した結果、WalkMeの効果を肌で実感、共有し合うことができた。トライアルユーザーからは、「マニュアルを見なくてもできた」「間違いなく業務効率化になる」「全社員のDXを推進できる」「新しいシステムやUIへの拒絶反応が緩和されると思う」「WalkMeが直感的な操作の互換になる」「SalesforceやSAP Aribaにも実装してほしい」といった好意的な声が集まり、誰一人取り残さないデジタル化の実現を確信したという。

同社は、この効果の測定・分析結果をSAP Concur導入プロジェクトのステアリングコミッティにて共有。年齢・性別・文化・身体の状況など、人々が持つさまざまな個性や違いに関係なく誰もが利用しやすいユニバーサルデザインの実現を目指して、WalkMeの力を借り、SAP Concurを起点にカルチャー変革を進めることについて、経営陣からの理解と後押しを得ることができた。「WalkMeを導入することが目的ではなく、本質的な狙いは新しい常識を取り入れ、マインドや文化を変革し醸成していくことです。つまり、経営戦略を実践するための手段として位置づけたということです」と佐藤氏。

こうして2022年、SAP ConcurにWalkMeを実装。2023年にはビジネスアクセラレーション課を発足させ、その中にWalkMeチームを組成。経営戦略に沿った活用を前提に、導入・開発ガイドラインの作成と内製化に向けたロードマップを策定し、同年12月までに9システムを対象にWalkMeを展開していった。このスピード感の鍵は内製化にあったとして、佐藤氏はこう説明する。

「WalkMeで解決すべき課題や解決イメージを描くことができるビジネス理解者、業務を理解している業務担当者、システムの操作・機能を把握しているシステム理解者が依頼部門として三位一体となり、ここにWalkMeの機能を把握・実装する開発担当者が加わり、自分ごととして導入を進めていきました。最適なメンバーを揃えることで、目指すべき効果の実現と効率的なプロジェクトの推進を可能にしたのです。内製化により、社内で迅速かつ効率的な対応が可能になり、WalkMeのシャドーIT化も防止できました。」

システムに手を加えずにさまざまな課題を解決

同社は、その後も対象システムを拡充し、2025年現在、45のシステムにWalkMeを導入している。全社横断的に活用が進んでいる状況だ。目指すべき効果を実現するためにWalkMeチームのメンバーも増強し、現場レベルで起きている変化を正確にキャッチしながら継続的な改善を進めている。

「導入と運用を進めていく中で、もちろんさまざまな課題が生じます。たとえば、SaaS側でのUIの変更により、ボタンの位置が移動したり、表示される文字が変更になったり、ボタンを押してもメッセージが表示されないといったことが起きる可能性があります。対策として、UI変更についてのお知らせをいち早くキャッチし、事前にWalkMeコンテンツの動作を確認、修正しておくことで動作不良を予防できます。また、予告なくUIが変更される場合に備えて、自動テストの機能を使ってあらかじめテストを作成し、定期的に実行しています。これにより、UI変更時に発生する動作不良の影響を最小化できます」と松原氏。

そのほかにも、システムの定着化から活用の高度化に至る各段階で、WalkMeが大きな効果を創出している。まず、入力ガイドや、入力内容に応じたルールの表示、図や動画の活用によりユーザーの迷いをなくした結果、勤怠管理システムでは問い合わせ件数が約80%減少し、ワークフローシステムではゼロになった。また、Fit to Standardの観点では、操作してほしくないボタンをWalkMeで隠す、画像を使ったヘルプを表示するなど、SaaSの自社システム化を実現することで、Salesforceでは誤操作の発生を解消。ドキュメント管理システムでは、ベンダー対応による改修費用約300万円をゼロにした。

さらに、定性的効果においては、デジタルUXデザインの向上という貢献も見られるとして、加藤氏はこう説明する。
「システムによってマニュアルの場所がバラバラだと探すのに苦労しますが、『困ったら押してね』ボタンを設置することでユーザーが発見しやすくしたり、2つのシステムをまたいで同じ値を入力する必要がある場合は、システムをまたいで入力値がコピーされるようにしたり、WalkMeがさまざまな課題を解決へと導いてくれています。」

WalkMe導入の先にある“Run”状態へとスケール

「導入して終わりではなく、“使いこなす”が本当のスタートラインです。DXを進めるなかで、システムを導入することと、使いこなすこととの間には大きなギャップがあります。WalkMeはただ迷わず操作できるようにするためのツールではありません。導入したシステムをフル活用できる、つまりRun状態へとスケールできることに真の価値があります。将来的には、AIや音声入力などを組み合わせて、より最適化されたプロセスを作ることで、人によってさまざまな使い方ができて、誰にとってもWalkMeが入っていてよかったという状況を作っていきたいですね」と語る佐藤氏。

荏原製作所が目指すのは、ユーザーの業務に適合した導線の構築による「ユーザーエクスペリエンスの向上」、迷いのないガイダンスや問い合わせの削減による「マニュアルや人からの脱却」、機能の柔軟な追加や正確なデータ入力を可能にすることによる「SaaSの壁の打破」、システムごとのリアルタイムな効果検証を通して生まれる「改善PDCA」である。その第一歩を静かに、かつ確かに後押ししてくれたWalkMeは、導入したシステムの価値を高め、未来の景色を大きく変えようとしている。

株式会社荏原製作所について

荏原グループは、1912年の創業以来、ポンプを中心とする産業機械メーカーとして社会・産業インフラを支える一方、その領域を、冷熱機械、送風機、コンプレッサ・タービン、廃棄物処理施設の設計・建設・運営管理、半導体製造装置・機器などへも広げた。さらに、コア技術を応用し、水素関連事業をはじめ、宇宙・マリン・バイオなどの新規領域にも挑戦している。

URL:https://www.ebara.com/jp-ja/
設立:1912年
資本金:806億円
代表者:取締役 代表執行役社長 CEO兼COO 細田修吾
本社:東京都大田区羽田旭町11-1
従業員数:連結20,510名、単体5,109名(2024年12月末現在)