【農林中央金庫】農林中央金庫のDX・AI戦略 ~「導入」だけで終わらせない利用浸透への挑戦 ~

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By WalkMe Team
Updated 10月 2, 2026

綱渡りで仕事をしていた社内システム

半場 雄二 氏 農林中央金庫 理事常務執行役員 ITデジタル統括責任者(CI&DO)/農中情報システム株式会社 代表取締役社長


Aトラック2番目のカスタマーセッションに登壇したのは、農林中央金庫の半場雄二氏です。1993年に入庫し、2018年にIT統括部長、2023年から現職。グループのIT子会社である農中情報システムの社長も兼務し、農林中央金庫のIT部門全体を統括しています。

農林中央金庫は1923年設立、農林水産業の協同組織を基盤とする全国金融機関です。連結総資産は83兆2,928億円、会員は3,167団体、従業員数は3,380人。JAグループ、JFグループ、J-Forestを出資者とし、それらの信用事業を担う立場にあります。JAグループの組合員数は1,015万人。この規模の金融事業を支えるシステムインフラも、半場氏の所管です。

取り組みが本格的に動き出したのは2021年でした。ただ、そこに至るまでの社内のツール環境は、決して整ったものではありませんでした。2021年にMicrosoft 365を導入したものの、掲示板や報告システムは旧グループウェアに残り、従来のワークフローシステムも残存していました。しかもそれらは連携していません。

「職員は各システムを手作業で綱渡りしながら業務を行っていました。コンテンツもファイルサーバーがあり、旧グループウェアの掲示板があり、ワークフローシステムの中にも文書管理の領域があり、Microsoft 365を入れたのでポータルもある。探すのも一苦労でした」
課題は3つに整理されていました。複数システムの利用による業務プロセスの煩雑化。コンテンツ集約先の点在による利便性の欠如。そして、要件整理からベンダーに一任したことによるシステムのブラックボックス化とコストの高騰です。

ここで半場氏が強調したのは、取り組む際のスタンスでした。

「単なる働く環境やインフラの刷新ではありません。仕組みや制度、業務の見直し、組織風土とセットで、その次につながるように取り組みました。DXを通じたCX、コーポレートトランスフォーメーション。これが基本的なベースにあります」
技術、制度、組織風土の三つを一体で動かす。縦割りや兼務文化を、コラボレーションとアジャイル型へ。PDCAサイクルからOODAループへ。ITインフラの整備は、その入り口として位置づけられていました。
 

役割を決めて、つなぐ。グランドデザインという設計思想

そこで描かれたのが、ITデジタル環境のグランドデザインです。ワークフローのプラットフォームはServiceNow、コミュニケーションのハブはMicrosoft 365、コンテンツのプラットフォームはBox。ソリューションごとに主要な役割を決め、APIで相互に連携させる。そして再構築する業務は、従前のAs Isをなぞるのではなく、エンドツーエンドで見直す。最初からこの絵が描けたわけではないものの、早い段階でイメージを持ち、整備の過程でもこの思想を守り続けたといいます。

実現に向けた工夫が、機能の部品化でした。まず稟議や報告といった汎用的なプロセスから着手したところ、あることに気づきます。

「いろんなプロセスがあるんですけど、分解すると基本機能は結構共通だよね、と。それなら部品化しようという議論になりました」
回付ルート、閲覧権限、部内承認、Box連携、チャット通知。切り出した部品を組み合わせる方式に変えた結果、ServiceNowの初期導入後1〜2年で、約8名の開発人員により30件ほどの専用ワークフローが立ち上がりました。プロセスの標準化と、同じ流れで操作できる職員体験の統一にもつながっています。

ワークフローで回付したコンテンツは、メタデータを付与してBoxへ自動格納する仕組みを組みました。当初の狙いは検索性でしたが、いま振り返ると別の価値が見えてきているといいます。

「当初は検索性の向上につながったと思っていましたが、今考えるとAIレディなコンテンツにもつながってきたのかなと感じています」
土台ができたことで、適用範囲も広がりました。現在は、マーケット業務の商品ごとに作られた個別プロセスシステムや、オペレーショナルリスクの報告システムなど、既存システムに点在する業務のプラットフォームへの取り込みを進めています。地味に積み上がっていた保守工数の削減と、既存システムの断捨離につながる取り組みです。法人向けの融資業務では顧客ポータルを設けるなど、対外接点まで含めたプロセスの見直しにも踏み出しています。
 

現場と伴走する「ビジネス共創部」へ

全社共通インフラの整備と並行して進めてきたのが、個々のビジネス領域での取り組みです。今後はここに軸足を移すべく、組織にも手が入りました。経営企画部門にあったデジタル推進組織をIT部門へ統合して2024年4月にDX共創グループを設置し、2026年4月、これを「ビジネス共創部」として再編しています。

「名前のとおり、ビジネスと共同してビジネス価値を一緒に創出しましょう、という思いでつけました。各ビジネス本部と伴走しながら、ビジネス課題とその解決による価値創出を共有して一緒に取り組む。いわば社内のFDE(Forward Deployed Engineer)のような役割だとご理解いただければと思います」
現場に張り付くだけではサイロ化するため、後方にはアーキテクチャや採用技術、プロセスを見る組織を置き、全社的な人材育成もここが担います。メンバーは自庫のIT人材、ビジネス部門からのローテーション人材、農中情報システムからの出向人材という構成です。

AI活用も、この枠組みの中で進んでいます。これまではMicrosoft CopilotやBox AIといった全社共通ツールの導入とハンズオン研修が中心でしたが、ここから先は個別のビジネスに寄っていきます。紹介されたのは2つの事例です。ひとつは社内汎用FAQのAIエージェント化で、規程類をBoxに集約済みであることが効いており、所管部とのやりとりをナレッジとして蓄積することで暗黙知を組織知へ変えていきます。もうひとつは法人融資の営業活動支援エージェント。営業記録、顧客データ、財務データ、市況データをもとに、提案のレコメンドからネクストステップの優先順位付けまでを自律的に支援します。

「メインのプロセスを再構築しても、周辺には細かな業務が残ります。そこは市民開発で取り組めないかと検討していますし、ユースケースと並行してガバナンスの整備も進めています」
 

マニュアルを作って配ったら、誰も読まなかった

講演の後半は、これらの取り組みをどう現場に浸透させ、定着させてきたかに移ります。

改めて時系列を追うと、2021年にMicrosoft 365、2022年にBox、2023年にワークフロープラットフォームをServiceNowへ刷新、翌年にはTeamsとBoxを連携させ、ファイルサーバーもBoxへ移行しました。この密度です。

「農林中金は基本的に伝統的な日本企業です。こんな感じで社内環境を変えていくと、当然フリクションは起きます。こんなにどんどん変えても、ついてこられるわけがないじゃないか。そんな声も多数ありました」
若い世代はすぐ使いこなす。しかし世代はすぐには変わらない。そしてAI時代が来る。

「AIで人間の創造性が拡張されると言われますが、AIを当たり前に使えるかどうかで大きく変わります。今とても重要なテーマだと思っています」
打ち手のひとつが人材育成です。全役職員を対象とする「ITデジタル人材」は2030年に6,000人が目標。その上に、DXを推進できる「DX人材」を2030年までに300人規模で確保する計画で、2026年現在で243名が育成プログラムを修了しています。デザイン思考とスクラムを軸にプロセスとセキュリティの要素を加えたトランスレーター育成プログラム、実際の業務課題にビジネス共創部が伴走するデータサイエンティスト育成プログラム。最近ではBPRの専門研修も強化しています。外部コンテンツは使いつつ、プログラムの設計そのものは内製です。

もうひとつの打ち手が、WalkMeでした。きっかけは、2021年のMicrosoft 365導入時の経験です。

「きちんとしたマニュアルを作ってユーザーに配りました。ただ、ユーザーはマニュアルをプリントアウトします。しかも結構な人がカラーコピーで。そしてほとんど見もせずに照会してきます。照会がいっぱい来るので対応も遅れる。双方に本当にストレスがかかる状況でした」
これをどうにかしたい。その時期にさまざまなソリューションの導入を控えていたこともあり、WalkMeの導入に至ります。

「その直後にやったワークフローの刷新では、ほぼマニュアルなしです。今も最低限の整備で進めています。使ってほしくない機能を目隠ししたり、誤操作を防止するようなこともできました」
マニュアルを探して読む作業から、業務画面に埋め込まれた操作体験へ。ユーザーが迷う前に、その場で理解できる環境をつくる。UI変更があれば即時反映でき、IT知識がなくても実装と保守ができることも、短期間での展開を支えました。

ただし半場氏は、WalkMeだけで解決したわけではないと付け加えます。

「拠点は20ほどですので、全拠点を巡回してハンズオンの研修というアナログ対応もしました。その中でWalkMeの使い方もフェイストゥフェイスで説明して、これいいねという話にもなりました。デジタルだけで解決できる部分だけでなく、アナログもうまく組み合わせたのが良かったのかなと今では感じています」
発想そのものも変わってきたといいます。

「不要な機能は運用で対処してもらおうというところを、ランチャーで目隠しするといった発想も出てきました」
 

DAPとAIが融合する先へ

現在、WalkMeは複数の全社共通システムに実装されています。全社ワークフローのServiceNowではチュートリアルと操作ガイドによるマニュアルレス化に加え、システム側で不足する簡易検索機能をWalkMeで補完。人事管理システムのCOMPANYでは年末調整や育産休、海外赴任対応のガイダンスを短期間で実装し、照会の多い項目は当日中にレベルアップしています。経費精算のConcurでは注意喚起の表示や不要項目の非表示により、入力ミスと差し戻しを抑制。一部のユースケースでは、照会件数が前年比3分の1まで減りました。人事系システムへの実装は約2カ月で本番リリースに至っています。

やや毛色の違う使い方として紹介されたのが、SharePointで構築した全社ポータルです。

「役員の似顔絵を作って、シャウトアウト機能でポップアップが出るようにしています。結果的に、職員の半分ぐらいがそれ経由で閲覧しています」
そして足元では、WalkMe AI機能のPoCが動いています。検証中のユースケースのひとつがConcurです。宿泊費の上限金額は役職ごとに異なり、規程も役職別に分かれています。そこで初回のみ自身の役職情報を選択させ、以降はWalkMe Data内に保持。ナレッジソースに登録した規程を参照し、入力された金額が上限を超えていれば注意ガイダンスを表示します。簡易な自然言語で指示でき、WalkMe側にロジックを持たないため、規程が改訂されてもメンテナンスは不要です。

半場氏がWalkMeに期待する姿は、「業務とシステムの間に立つインテリジェントな触媒」への進化でした。人がシステムに合わせるのではなく、システムが人の業務に寄り添う形へ。

「AI活用がさらに進んでいく時代の中で、UIのところでDAPとAIをうまく融合して、全体としてより効果を創出できる状況も出てくるのかなと意識しながら取り組んでいます」
講演は、こう締めくくられました。

「環境もテクノロジーもどんどん変わりますので、感覚的に言うと、目処がつくようなことはまったくなく、まだまだ迷いながら進めているのかなと感じています。そういう状況だからこそ、本日の話が皆さんの参考になれば幸いです」

  当日の講演動画はこちら
 

【前編】WalkMe on Tour Tokyo 2026 AIの可能性を、成果に変える

【後編】WalkMe on Tour Tokyo 2026 AIの可能性を、成果に変える

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