【リコー】AIエージェント時代のプロセスDX 〜人とAIが協働する業務変革への挑戦〜

WalkMe Team
By WalkMe Team
Updated 10月 2, 2026

生産現場の3K、オフィスワークの3M

塩谷 晴久 氏 株式会社リコー DX本部 ワークフロー革新センター プロセスDX開発室 室長

ランチタイムのセッションに登壇されたのは、株式会社リコーの塩谷晴久氏です。DX本部ワークフロー革新センターで、プロセスDX開発室の室長を務めておられます。業務設計・業務改革やBPMの領域を経験され、2018年にRPAのCoEへ参画されて以来、社内デジタル革命の活動に携わってこられました。

リコーが掲げるのは「“はたらく”に歓びを」という企業理念の使命と目指す姿です。

「リコーは1977年にオフィスオートメーションという言葉を提唱しました。機械にできることは機械に任せて、人はより創造的な仕事に。この思いは2026年の今も変わっていないと思います」
プロセスDXに踏み出した背景には、製造業ならではの気づきがありました。生産現場ではきつい、きたない、キケンの3K作業を自動化し、取り除いてきた。ところが当時のCEOだった山下現会長が、同じことがオフィスでも起きているのではないかと指摘します。

時間ばかりかかる面倒な作業、繰り返しでつまらないマンネリの作業、月末に数字を合わせなければならないミスできない作業。オフィスワークの3Mです。これをデジタルの力で取り除いていく。2018年にRPAを起点として始まったボトムアップの活動は、2021年に組織横断のプロセスDXへと広がっていきました。

無駄な作業が、無駄のままデジタル化されていた

RPAの導入から3年が経った頃、塩谷氏はある人事業務に出会います。部門から部門へExcelとメールでバケツリレーのように受け渡していく業務でした。RPAで自動化すれば作業は楽になる。実際に効果も出た。それでも塩谷氏は立ち止まります。

「このバケツリレーみたいな業務を、そのままRPAでやっていいものだろうかという疑問に立ち返りました」
無駄な作業が、無駄のままデジタル化されただけではないか。大切なのはエンドツーエンドで可視化し、プロセスそのものを見直して最適化することだ。この気づきが、リコー流のBPM活動をプロセスDXとして体系化する出発点になります。

型は、可視化、最適化、デジタル化の三段階です。デジタルありきではなく、まず業務を理解して目的やプロセスを見直してみる。その順番を崩さないことが前提に置かれました。

可視化では、いきなり業務フローを描くのではなく、その組織にどんな業務があるのかを構造化し、業務量や属人化の状況を把握するところから始めます。

「業務の改善というと、どうしても声の大きい人の改善が優先されてしまう。そこをしっかりデータから優先順位をつけていく」
そのうえで、優先順位の高い業務について問題を引き起こすメカニズムを可視化していきます。

続く最適化が、この型の要になります。目の前の手順を効率化するのではなく、そもそも何のためにこの業務を行っているのか、本来あるべき姿はどういうものかを考えて、プロセスを再設計する。そこから無駄を排除し、デジタルやAIを組み込んで最適化していきます。個別最適なAIが導入されて人手で補完される状態に陥らないよう、統合的な視点を欠かさないことが条件です。

誰もが同じやり方で進められるよう、可視化を担うビジネスアナリスト、デジタル化を担うシチズンディベロッパーという人材像も定義し、育成とセットで社内に展開しています。

点の成功は、そのままでは面にならない

デジタルツールの使い分けにも考え方があります。業務量の多い基幹システム領域はクリーンコアで使い、日本企業特有のフィットしない部分はCoEによる周辺開発でカバーする。部門最適や個人最適の業務は、IT部門の順番待ちにせず市民開発に委ねる。

ただし、クリーンコアで使う基幹システムそのものは、改善の余地があっても手を入れにくい。ここにピースが足りていませんでした。

「そこをWalkMeさんのソリューションでケアして、基幹システムをWalkMeで改善していくような活動が、今始まっています」
リコーのWalkMeは2021年、受発注システムへの初導入から始まりました。2024年に購買とERPへ横展開し、操作時間は30〜50%短縮、問い合わせは20〜30%削減という効果が継続して確認されます。そして2025年、全社展開が決まりました。

ここで見えたのが、点の成功はそのままでは面にならないという壁です。導入の標準プロセスが存在せず、案件ごとにゼロから始めることになる。ノウハウが個人に留まり、他システムに再利用できない。作った拡張機能を全社のユーザーへ配布する仕組みもない。

CoEはこの3つを取り除く役割として設立されました。開発プロセスを標準化し、ノウハウ展開のガイドラインを整え、IT部門と連携して拡張機能を全社に配布する。現業部門とIT部門をCoEがつなぐ、三位一体の体制です。

整備したのは、進め方、品質、ドキュメントの3つの型でした。小さく出して改善するアジャイル型の導入プロセス、属人化を排除する開発ガイドライン、要件定義書や設計仕様書の雛形一式。加えて解説動画を58本用意し、初版はWalkMeのサポートを得ながら作り、現在は自走でブラッシュアップを続けています。

当初は利用部門が市民開発ツールとして使うことを想定していましたが、基幹システムに絡む以上、現場のメンバーだけで開発するのは難しいと分かりました。そこで利用部門開発型とCoE開発型のハイブリッドに切り替えます。1stリリースはCoEが手厚く伴走し、2ndリリースは分からない時だけチャットで相談を受け、3rdリリース以降は利用部門が自走する。

導入システム数は14、利用者は約35,000名、CoEを除く開発者認定は45人。社内推進サイトがナレッジを集約するハブとして稼働し、利用部門向けに事例や更新情報を定期発信しています。

塩谷氏は、CoEという仕事の心得についても触れました。相手が動いてナンボであること。推進する側も自ら実施しなければ評論家になってしまうこと。そして仕事の進め方に正解はないので、型通りではなく型を活かすこと。

「相手の成果は相手のもの、相手の未達は自分のせいです。相手に成果が出たら、陰でこっそり喜ぶ。そういう黒子に徹するような仕事だと思っています」

それぞれの部門に、それぞれの正しさがある

後半のテーマは、AIとプロセスDXの関係です。

「世間はAIエージェントに熱狂しています。何でもできる、業務は全て自動化される、人はいらなくなる。ただ、現実の企業の業務はそんなに簡単ではなく、もっと複雑だと思っています」
DXに関わる部門には、社内のあらゆる方面からAIエージェントは使えるという声が届きます。経営層からも上司からも来る。塩谷氏は、それぞれの言っていることは正しいと言います。問題は、同じAIエージェントという言葉でも立場によって思い描くものが違うことです。

業務部門は手間を肩代わりする代行者として、IT部門は統制が必要なシステムとして、データ部門は正しいデータがなければ動かない仕組みとして見ている。それぞれが正しく、しかし誰も全体を見ていない。

だからこそ、プロセスという共通言語を真ん中に置く必要がある。どこの話をしているのか、どこにAIを活用できるのか。同じ絵の上で議論できるようにしなければ、期待と現実の差は埋まりません。

生成AIそのものにも、得意と不得意があります。探索、要約、下調べ、文書のドラフト。これらに共通するのは、誤りを後から修正できることです。一方で会計、契約、支払いといった確定処理や、法令に関わる判断は、誤りの影響が大きく説明責任が伴います。

「確率的な判断を、確定的な業務処理と同じように扱ってはいけない。つまるところ、誤りの許容度で使い方を変えなければいけないと分かりました」
リコーが整理した方向性は2つです。エージェント同士で完結させるA2Aは、情報収集や議事録整理のように並行して走らせる業務に向く。人が結果を比較・統合して最終成果にします。もうひとつが人の判断を介在させるHITLで、基幹系のように確実さが求められる業務では、プロセスがAIを統制する形をとります。

「AIは提案まで、確定は人とプロセスが担う。例外や低信頼度のものは自動的に人へ戻し、証跡を残します」
実例として紹介されたのが、ある事業部門の請求書業務でした。当初はAI-OCRでデータ化してRPAで基幹システムに投入すればよいと考えていましたが、プロセスDXの型に沿って作業を可視化すると、別の姿が見えてきます。そもそも請求書が担当者のところに集まってこない。OCRでデータ化しても、基幹システムに入力するための項目が足りず自動入力できない。

そこでエンドツーエンドで設計し直します。請求書を確実に集めるために登録のアプリを用意し、OCRが読み取ったテキストから勘定科目をAIが予測する。会場で示された例では、読み取ったテキストだけを見ても担当者以外には何の品目か分かりませんでした。それをAIが判断します。

「属人化していたところを、ちゃんとAIが持ってくることができるようになりました」
構造化したデータとAIが判定した勘定科目がそろえば、最後は人が確認し、RPAが自動的に入力していく。小さく始めた取り組みでしたが、現在はプロセスの異なる経理部門へも展開が始まっています。

人とAIを、プロセスでつなぐ

塩谷氏は、WalkMeのAI機能にも期待を寄せていると語りました。Action BarでAIアクションが選択できるようになったことです。

「WalkMeはプロセスの中で人をガイドしていけるのが非常に強みだと思っています。どういう手順を追っていくのかを誘導していく、その中でAIを活用して、さらに業務を高度化できるのではないかと思っています」
人間向けに最適化するのがWalkMeの元々の機能だとすれば、そこにAIによる強化が乗る。画面に表示された情報をもとにAIで処理できるようになることに、大きな可能性を感じているといいます。

最後に、塩谷氏はこの日の講演全体を一つの言葉でまとめました。

「AIだけで価値が生まれることは、なかなかないと思っています。人とAIをプロセスでつなぐことで、価値が生まれる」
プロセスは共通言語になる。その共通言語の中で、どこを人がやり、どこでITを使い、データを使い、AIを使うのか。それをしっかりオーケストレーションしていくことに、プロセスがある意義がある。

「プロセスを価値あるプロセスに変えていって、そこにAIをしっかり活用していく。その先に、これまでにない新たな業務の価値が生まれていくのかなと思っています」


当日の講演動画はこちら
 

【前編】WalkMe on Tour Tokyo 2026 AIの可能性を、成果に変える

【後編】WalkMe on Tour Tokyo 2026 AIの可能性を、成果に変える

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